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藝大リレーコラム - 第六十三回  橋本和幸「買上展」と「クラムボンっておぼえてる?」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第六十三回 橋本和幸「買上展」と「クラムボンっておぼえてる?」

2023年4月はふたつの展覧会に関わらせていただきました。

ひとつめの展覧会は大学美術館で行われている藝大コレクション展2023『買上展』です。

「買上」とは東京藝術大学が卒業及び修了作品の中から各科ごとに特に優秀な作品を買い上げて収蔵する制度で、今回のコレクション展は巨匠たちの学生制作と各科が選ぶ買上作品を展示しています。私の作品もデザイン科学部卒業制作の時に買上されました。今回はその時以来、32年ぶりにその作品が展示されることになりました。

私が浪人していた当時のデザイン界はバブル期で日本のプロダクトデザインが世界をリードする花形の世界でしたが、一方でデザイン科の先輩たち(日比野克彦学長やタナカノリユキさんたち)がアート界に旋風を巻き起こしていた時期でもあり藝大生は憧れでもありました。そうした影響もあり3浪で入学した私はデザインのベースにある芸術性に興味をもち、いわゆるデザインというより抽象的な芸術の探究に傾倒していきました。そして学部3年生の頃、この道に導いてくれた高校時代の美術の先生と「インターセクション」というチームをつくり、国際美術展や野外彫刻のコンペなどで入選し作品の設置などをしました。その流れでたくさんの作品スタディを行い、当時の卒業制作の作品につながっていったのだと思います。デザイン科の教室は狭く大きな作品は制作できないので最後は校舎外のグランド脇に単管で足場を組んでそれをビニールシートで覆い、雨風を防いで無我夢中で制作したことは今も記憶に残っています。32年ぶりに見る自分の作品は荒削りで少し恥ずかしい部分もありますがよくあの制作環境でできたなあとも思います。作品のタイトルは「時空の顕在化」です。自分の原点を見て、改めてこれは現在の研究室名「Design Embody」につながっていると感じます。

 

ふたつめの展覧会は「クラムボンっておぼえてる?」

東京藝術大学デザイン科第?9?研究室(Design Embody)?の学生と卒業生有志による展覧会です。

 

「小学生の頃、宮沢賢治の「やまなし」を読んで絵にする授業がありませんでしたか?」?

私は想像をかき立てるこの物語がすごいなと思ったのと同時に「クラムボンってなんだ?」と思いながら、得体の知れない何かを想像しながら絵を描くことって「いいなあ!」と感じた記憶が今も残っています。

数年前に名付けられた研究室名でもある「Design Embody 」とは「具現化する。体現する。」などの意味が込められています。「 クラムボンを想像しながら絵を描く」ことと同じように、アートやデザインもモヤモヤした見えない何かを形にしたり、それを何か認識するにはまだわからないような概念を表現することに魅力があるのではないでしょうか? 私の卒業制作もそのような思いが詰まっていたのではないかと感じます。

私は「見えない何かをつくる」ことや「よくわからない既存領域を超えた表現」が「くらしのゆたかさ」につながる可能性を秘めていると考えています。

「一見よくわからなくて機能がないものを飾ったりしている家って素敵じゃないですか?」

もともと空間デザインや立体造形中心に研究をしてきた研究室で、その研究が「くらしをゆたかにする」ことに繋がればいいなと思ってきました。

「一見機能がないと思っていたものは実は暮らしをゆたかにする機能を持っていたのだ!」そんな世界を作りたいものです。そしてこの研究室がそんな役割を果たせればと思います。

2006?年から研究室を持った私とともに関わってきたメンバーたちの作品や活動をとおして、研究室の現在位置を確かめてみようと思いました。?展示空間は普通の展示台ではなく、藝大でデッサンなどの時に使う椅子(箱椅子)を束ねて展示台として空間構成しました。椅子の裏に何年に購入したものか数字が書いてあるのも面白く、私が学生時代のものまであり、?皆が一度は座った椅子に作品を置いてみたいと感じました。

展覧会後にミラノサローネで発表するメンバーたちもいた中、この展覧会をとおして様々な業界で活動するメンバーたちの関係者も多種多様でこれがきっかけで繋がることも期待し、批評やご指導で互いに精進できればと思います。その思いも込めて今後も「クラムボンっておぼえてる?」展を定期的に続けたいと考えています。

 

橋本和幸「陰と陽」

写真は全て「クラムボンっておぼえてる?」会場より

 

 

【展覧会情報】
「買上展」藝大コレクション展2023
会期 : 2023年3月31日(金) – 5月7日(日)
午前10時 – 午後5時(入館は午後4時30分まで)

休館日 月曜日 ※ただし、5月1日(月)は開館

会場 : 東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1、2、3、4
観覧料 : 当日券は、美術館チケット売り場および美術展ナビアプリにて販売中

一般(当日)1200円
大学生(当日)500円

高校生以下及び18歳未満は無料
※障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料

一般(前売)1100円
大学生(前売)400円

主催 : 東京藝術大学、読売新聞社
助成:藝大フレンズ賛助金、公益財団法人 花王 芸術?科学財団
https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2023/03/collection23.html

 

「クラムボンっておぼえてる?」

DESIGN EMBODY
東京藝術大学デザイン科第9研究室

会期:2023年3月31日(金)~ 2023年4月9日(日)
時間:11:30~19:30 ( 最終日11:30~18:00)
会場:TIERS GALLERY 東京都渋谷区神宮前5-7-12
入場:無料
出展者:橋本和幸、柚木恵介、鉾井喬、安西佐織、狐塚崇子、庄司拓弥、松田祐梨子、荒巻まりの、黒川悦史、進藤篤、山田勇魚、鷲野愛未、若田勇輔、太田琢人、田中(大竹口)瞳、高井碧、高本夏実、関根芽依、島田智世、今村亮介、石田己和、杉山あるく、南海宇、ヤマモトヒカル(計24 名)

展覧会企画:橋本和幸
展示デザイン:進藤篤、太田琢人
グラフィックデザイン:高本夏実
橋本和幸&研究室WEB:https://www.hashimomoh.com/


【プロフィール】

橋本和幸
東京藝術大学 美術学部 デザイン科 第9研究室 (Design Embody) 教授 1965年神奈川県生まれ  1991年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業  1993年東京藝術大学美術研究科デザイン専攻構成デザイン修了   インテリアデザイナーとしてホテルや店舗、住宅などの内装デザイン多数担当(ホテルモントレ銀座など)、2006年4月に東京藝術大学デザイン科着任。 現在、大学のプロジェクトとして、 瀬戸内海分校プロジェクトの分校長。https://www.tua-kagawa.com 国際交流棟 変化し続けるパブリックアートでは「ARTS?LOVE?WALL芸術は壁を越える」運営中。https://www.love.geidai.ac.jp