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藝大リレーコラム - 第六十五回  鷲田 めるろ「社交の場」としての大学

連続コラム:藝大リレーコラム

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第六十五回 鷲田 めるろ「社交の場」としての大学

この4月、国際芸術創造研究科に着任しました。上野キャンパス音楽学部側の国際交流棟5階に私の研究室があります。この建物は、隈研吾建築都市設計事務所がデザインを監修して今年新しく建てられました。

研究室の窓からは、キャンパスの緑が見下ろせます。この見晴らしの良い窓を太い集成材の部材(ブレース)が対角線上に横切っています。壁や天井、柱など内装はすべて白く塗装されているのですが、この斜めの部材だけ、塗装されず木地のまま仕上げられています。実はこの建物は、鉄骨造と木造の混構造で、5階はすべて木造です。露出した斜めの部材は、木造であることの表現だと言えるでしょう。

新しい建物の完成と着任が重なったため、初めに研究室の本棚や机、椅子等の備品を選ぶことになりました。壁面の部分をすべて木地の現れた本棚にし、部屋の中央に正方形になるように机を置き、8人ほどで机を取り囲めるよう椅子も入れました。

先日、六本木の森美術館で建築家のヘザウィック?スタジオ展を見ました。その中に、シンガポール南洋理工大学の校舎の展示がありました。有機的な曲面をもったユニークなデザインです。この建物では、デジタル技術によって学外でも学ぶことができるようになった現状に即して、教師と学生が共に学ぶ学習法を推進できるようにすることが目指されていました。そのために、極力廊下を無くし、学生と教師が偶然出会うような設計にしたと言います。「教師や学生が集まり、自然に対話し、情報交換ができる社交の場」(展示解説)としての大学です。この展示を見て、自分の大学の空間で、どのように対話や情報交換を生んでゆくのかを考えさせられました。

私のゼミに参加している学生は10人ほどで、4階にある講義室を使っていますが、ご自身の研究室でゼミを行なう他の先生もいらっしゃいます。講義室でのゼミの後に、研究室に集まってカジュアルに話し合う例も目にしました。そこにはお茶などの飲み物やお菓子、花もありました。

机が一方向に並ぶような官僚的な空間から、よりカジュアルでプライベートな、例えばソファのあるような空間にすれば、リラックスして話しやすくなるのか。しかし、プライベート感が強まりすぎると、さまざまなハラスメントにも繋がりやすいようにも思われました。

国際交流棟の中には茶室やサロンもあり、留学生との交流が生まれるように設計されています。空間の使い方を試しながら、授業の形式や備品などのソフト面も工夫して、さまざまな人が行き交う開かれた対話の場をつくってゆけるよう、考え続けたいと思います。

ヘザウィック?スタジオ展でのシンガポール南洋理工大学校舎の模型展示(森美術館にて筆者撮影)


【プロフィール】

鷲田めるろ
東京藝術大学 大学院国際芸術創造研究科 アートプロデュース専攻 准教授 1973年京都市生まれ。東京大学大学院修士修了。専門は美術史学(現代美術)、博物館学。 金沢21世紀美術館キュレーターを経て2020年より十和田市現代美術館館長。 第57回ヴェネチア?ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター。あいちトリエンナーレ2019キュレーター。 主な企画に「金沢アートプラットホーム2008」、「イェッペ?ハイン 360°」、「島袋道浩:能登」(以上金沢21世紀美術館)。 著書に『キュレーターズノート二〇〇七?二〇二〇』(美学出版)。 主な論文に「アートプロジェクトの政治学」(川口幸也編『展示の政治学』水声社)、「鶴来現代美術祭における地域と伝統」(『金沢21世紀美術館研究紀要』5号)。 鷲田めるろ略歴業績(researchmap)は以下のアドレスより

https://researchmap.jp/meruro/